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【噓つきは鳶職の始まり】??聞いたことあるような無いようなこの言葉って何?ここは当時の現場をリアルタイムでくぐり抜けて来た社長が解説。

2024年07月29日

暑い日が続きますね。最近は地球温暖化だと指摘されておりますが、なんだか冬は別にいつも通り寒くて今年の1月~2月ボクは新宿に通っていましたが、ある雪が降った日にマジで寒くて指先が動かなくなるほどだったと記憶しております。その時ばかりは【何が地球温暖化だよ、普通に地元(栃木)みたいに寒いじゃないか】と思いました。が、やがて春が来てついに夏が来ました。いやぁ~地球温暖化とかなんとか別に言わなくてもとにかく昔なんか比べ物にならないくらい暑いと感じております。年齢のせいなのか地球のせいなのか、とにかくやっぱり昔より暑いですよね!間違いなく!というわけで昔と言えばボクが独立したての29~30歳の頃を思い出してみますと、現場も色々と変化していると感じます。今日はその変化(進化)によって今では完全に風化してしまい、言葉だけになってしまっているのではないかとボクが勝手に思っていることに関して少しだけ解説したいと思います。

晴海E2棟【現・晴海トリトンスクエア住居エリア】にて

ボクは26歳の頃に晴海のトリトンスクエアという27F建てのマンション新築の職長をやっていました。思い出いっぱいのその現場にはかれこれ1年以上常駐していたと思います。建設現場は皆さまご存じの通り分業化されておりまして色々な業者さんがゼネコンからの発注を請けて現場に来るのですが、そんなわけで例にもれず晴海E2棟でも作業員詰め所はボク達の他にも様々な職種の職人さんが大勢来ておりまして、毎日一緒に休憩時間を詰所で過ごしていました。詰所のボクたちの席は、現場全ての足場や手摺を架設するのがメイン作業の【とび職】、防水シーリングを専門とする【シール屋さん】、建物のバルコニーやら床やら柱や梁などを取り付ける【PC屋さん】、現場の測量や図面などから実際に現場で位置を記していく【墨出し屋さん】と隣り合っていました。当時晴海E2棟の現場は各職の職人さん同士が非常に仲が良くて本当に毎日が楽しかったと記憶しています。ボクが独立する前の時代に担当した物件ですので今から25年前でしょうか。毎日楽しかったってそりゃあ当然かも知れません。ボク自身がこの頃は若いし疲れ知らずですからね!どんだけ全力で働いてもその後全力で朝まで遊べましたから(笑)この頃本当にこの現場で、仕事って大切なのは【仕事の内容<カネ<仕事場の環境】なんだなって実感することが多かったと記憶しております。現場全体のリーダーだった長田所長、今も本当に尊敬しております。職場トップの人の人格が職場全体の雰囲気や人間関係を醸成して行くという事も教えていただきました。

関西鳶と関東鳶。そして当時の流行り

そんなわけでボク達の詰所は鳶職(土工さんも一緒)、シール屋、PC屋、墨出し屋、そして斫り屋(ボク達)だったんですがその隣のエリアには左官屋、設備屋、電機屋、仮設電気屋、型枠大工、払し屋、本当に色んな業者が休憩していました。(その両方のエリアの中間に食堂と売店がありました)他職の皆さんと一緒に休憩しているうちにどんどんみんな仲良くなって行きます。たまたまこの現場では休憩の度に鳶職の席で【ドンドン】が開催されていました。ですから10時、お昼、15時は常に大騒ぎですよ。机の上にお金をパチンパチン叩きつけながら打つので、昼休憩の時なんて左官屋さんから【うるさくて昼寝出来ない】ってクレームが入るほどでした。ですがこの現場の職長会の会長はとび職の親方だったので、まぁまぁまぁ会長も参加して熱くなっていたので結局中止になることは無く【寝てる人もいるんだから大盛り上がりをするのはやめようね。静かにやりましょう】っていうもっともらしいけどインチキ極まりない着地で終わりだったと記憶しています。内心は【何言ってやがる、バクチなんざ威勢よく打つもんじゃ。ツキが落ちるわ】くらいに思っていたのでしょうけど。

しかしながら時代の変遷とともに、これらすべての花札などを用いた休憩時間の遊びなどは【賭博行為】に当たると言う事で今では【絶対禁止】【ご法度】【出入り禁止案件】になってしまって、もう見かけることが出来なくなってしまったこの光景。当時は休憩のたびに普通に目にする光景だったんですよ。令和のこの時代に果たして【ドンドン】のルールをご存じの方、いらっしゃるでしょうか・・・

このカードを見て【お、懐かしいなぁ】って感じた人っていらっしゃいますでしょうか?今40代後半~50代以降の職人さんなら辛うじて知ってますかね?ボクは大好きでした。個人的におそろしいと思うのは、左右に1枚づつ美しい赤い札(線は銀色)ありますよね?これ【ピン】の札なんですよ。これみただけで条件反射で胸がトキメいちゃいます・・・

そうです!これこそまさに【株札(かぶふだ)】と言われる札です。【しっぴん】【くっぴん】【どんぴん(関西鳶ルールか?)】【ぴんぴん(ご祝儀中オール)】2枚配られるカードの1枚目がピンだった場合は、つまり高確率で役が手札に入る事になるわけですよ。あーもう、美しい・・・

多人数参加型の賭場では【ドンドン】。3人で(1人抜けしながら4人でやる場合もありました)やるのが【コイコイ】。その二種類が主流でした。この現場の場合は全体の人数が多いこともあってほとんど毎日がドンドンでした。

鳶、鉄筋、型枠、墨出し大工、斫り屋(ワタクシ)、まさに躯体業者の賭場が連日開帳

流行りもありましたし、人数が多いほど獲得する賞金が大きくなるドンドンは大規模現場では流行りだったと思います。もう晴海の場合はとび職の親方が博打大好きでしたので、1回のコールの上限が500円、ドンドンが出たら御祝儀500円オール、ピンピンは最後まで突けば御祝儀300円オール、3回転で強制勝負に移行と言う、まぁまぁ刺激的なルールでした。(3回って縛りをつくらないとどこまでもになってしまうため)あ、そうそうタワークレーンのオペレーターも参加してたなぁ。鳶とTCオペはセットですもんね(笑)関西弁の鳶さんがいて、彼が本当にギャンブルが大好きな人で【俺は博打するために生まれて来た】と豪語するくらい自他共に認める博打うちでした。ボクはその関西鳶となぜか気が合いました。ボクも勝負事が好きだったからでしょうかね(笑)

ドンドン(関西鳶Ver.)ルールを少し解説

ここでいったんドンドン(関西鳶Ver.)のルールを解説させていただきます。

株札を参加者全員に2枚ずつ配ります。その2枚を合計して一の位が大きいほうが勝つ。ただし、ドンドン独自の特殊役が存在します。役は数字よりも強いです。そして役にはすべて強弱が定義されています。先ずは札を配られたプレイヤーは賭金を上乗せするか勝負を降りるかを選ぶことができます。

ブラックジャックやおいちょかぶのように札の数字の優劣で勝負が決まると言う原則はあるにせよ、ポーカーのように弱い手札でもブラフを使って強気に賭けて(突いて)相手を降ろさせる、逆に圧倒的に有利な手札の時に相手を降ろさせることなく、ゲームを続行させてレートを吊り上げて行く等、駆け引きが超重要なゲームで、相手の手札の読み合いや心理戦の要素が重要でなんです。

基本的にレートの決定権を持つ親が若干有利で、各プレイヤーはゲームに勝って次の回の親を取ることが戦略上重要となります。

手札の呼称

  • 0 – ブタ
  • 1 – ピン、インケツ
  • 2 – ニタコ
  • 3 – サンタ
  • 4 – ヨツヤ
  • 5 – ゴケ
  • 6 – ロッポウ
  • 7 – シチケン
  • 8 – オイチョ、ハッポウ
  • 9 – カブ
  • 10 – ジュウ、ドン

役の呼称

ゾロ目役

数字が大きいほど強い(1-1【ピンピン】だけは例外で9-9【クック】よりも強いとするルールもある)

  • 1-1:ピンピン(達成者に参加者全員から「ご祝儀」が支払われる)
  • 2-2:ニャンニャン、リャンリャン
  • 3-3:サンサン
  • 4-4:シシ、ヨンヨン
  • 5-5:ゴンゴン
  • 6-6:ロクロク
  • 7-7:シチシチ、チッチ、ナナナナ
  • 8-8:ハチハチ、パッパ
  • 9-9:クック
  • 10-10:ドンドン(最強の役。達成者に参加者全員から「ご祝儀」が支払われる)

特殊役

ゾロ目よりも弱いが数字役よりは強い。シロ<シッピン<クッピン<ドンピンの順に強い。

  • 4-6:シロ
  • 4-1:シッピン
  • 9-1:クッピン
  • 10-1:ドンピン

発声

親が突くときはカードを伏せて手前に置き、金額を大きな声で言いながらその金額の現金を場の中央に置く。E2棟ルールでは金額上限500円。子がその提示された金額でも負ける気がしないなら、同じようにカードを伏せて手前に置き、提示された金額を同じく発生しながら場の中央に置く。降りるときは【レッコ】と発生してカードを伏せて場の中央に置く。レッコとは玉掛けの合図の一種で【解放する】とか【離す】って意味です。イメージとしては【ストンとつり荷を落とす、置く】って意味です。そして最終的に親が【勝負】と言うまでお金の積み合いは延々と続きます。これが長引きますと大金になってしまうので3回まわったら強制勝負と言うルールがこの現場では設けられました。

嘘つきは鳶職のはじまり

さてルールをご覧になってお分かりかと思うのですが、このゲーム最大の特徴と醍醐味は【最後の勝負の時まで他人の手札はわからない】【途中でレッコした人の手札は永遠に謎】という2点でしょう。ドンドン(最強役)が自分に入っていない限りは相手をブラフや強気の金額の提示でおろしちゃうことがいつでも出来るのです。ここがドンドン最大の魅力ですよ。極端な例を挙げるなら手札が3と7のブタでも強気の発言とMAX金額を徹底して何度も突けば相手の手役にクックが入っていたとしてもワンチャンおろすことが出来ちゃう。500円が上限ですからまぁまぁハッタリにもレートによって限界はありますが、例えば上限が5万円だったらどうでしょうか?上限が無かったら?

これは実際の経験を踏まえた上での感想なのですが。その時まだレート規制を鳶の親方がしていない頃です。いつものようにボクは参加していたんですが、たまたま自分の手札に十十(最強役)が入った時があったんですよ。で、例の関西鳶が親でした。わかりやすく金額も全部書いちゃいますね。最低が50円からで最大が5000円、最大周回数は限りなし、というレートでした。

関西鳶は最初【500え~ん】と小さい数字で来ました。ほとんどの人はついていきました。2回目のコールで【2000え~ん】と来ました。ここで9人の参加者のうち半数以上がレッコレッコとバタバタ降りていきました。そしてついに3回目のコールで力強く【5000円!どや!】と来ました。ここでほとんどがレッコしました。ボクは手役が最強なので降りようか考えるようなフリをしながら最後までです。うわうわうわうわとか言いながら5000円突きました。ていうか10000円を財布から出して5000円お釣りを場から受け取りました。まぁこうしている間も外野が騒ぐわけですよ、こいつの手は、ああでもない、こうでもない、といった風に。次回もMAX来ました。ボクも気合とともについていきます。もうここですでに財布の中身は空っぽです。が、負けはありません。

まぁ最強が入っているので最後までどこまでも突いて行くと言うボクの行動は当然だったわけなんですけど、本当にこの関西鳶もそうなんですけどトークが上手くて!周りのギャラリーもみんなみんな三味線(ブラフ)が上手いんですよ!もうね、本当に自分が十十だったか、もし見間違えてたら俺終わるって気に何回もさせられましたよ!ただ覗き込んで確認なんてしようものなら一発で【こいつ入ってやがる】って見抜かれてしまうじゃないですか!マジで【ここでレッコしたい!】って気に一瞬なっちゃうくらいハッタリが絶品なんですよ!圧のかけ方とタイミングが本当にうまい!仮にこの時ここでボクが最強手札じゃなかったら相手に十十が入っているんじゃないかって邪推してしまって、冷静に考えたらそんなのあり得ないのに【おろされちゃう】ところだったと思います。彼、そして彼らの博才には本当に敬服します。本当に嘘つきはとび職の始まりとはよく言ったものだと心の底から痛感しました。

そして勝負の顛末だけ。場にはざっと7万円以上の現金が積まれています。関西鳶がとうとう【このままやと一服終わっちまうやん。しゃあないな。ここで勝負や!オープン!】と言って自分の手札を晒しました。手札は、まさかの【ヨツヤ】でした。【どや、斫り屋、みせてみぃ!】ボクはサッと手札を晒しました。ドンドン!【フン。立派やないけ!】この時の彼のこの一言は25年経った今も鮮明に覚えています。関西鳶小林さんのギャンブルの才能は本当に突き抜けていたとも思います。

ここで鳶職の親方であり職長会の会長の久保寺さんが【橋本ー!昔から【嘘つきはとび職の始まり】って言うんだぞ~!】と言ってニコニコ笑ってご祝儀をくださいました(笑)。(ドンドンを出した場合は参加者全員から500円もらえます)本当に古き良き時代がここにあったと思います。

最後に

このように今では現場では賭けていようがいまいが、大手ゼネコンでは花札禁止になってしまっておりますので今はもう【嘘つきはとび職の始まり】と言う言葉だけがただただ残ってしまっているような気がします。鳶さんは常に団体で行動しているのでドンドンが休憩時間のたびに開催されている現場が多かったですねぇ~!ボクが初めて常駐して職長をやった現場、世田谷4丁目マンションでもそうでした。やはり鳶さんたちがドンドンをやってたなぁ。もちろんそれは休憩時間のドンドンに関してだけ言うのではなく鳶と言う商売全体で【ドロボーのような儲け方が出来る魅力的な職種】というのを揶揄した意味合いもあると思います。果たしてドロボーが儲かるのかどうかは疑問ですが。

ドンドンってやっぱハッタリや三味線(ブラフの事。口三味線、シャミとも言う)がものを言うギャンブルですからね。それもありまして、とび職は基本的にやり込んでいるのでドンドンが強い、うまい、と言うイメージがあります。

最後にまとめますが、結局そんなこんなで【噓つきはとび職の始まり】と言う言葉だけが今も残っているのではないのでしょうか。

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