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世にも絶妙な物語 第二話

2023年06月22日

さて先日それがし、愚息と口論になりはしたものの落ち着いてよくよく考えてみますと確かに細君からはこの数年間度々、診療所に行くようにと助言を受けておりました。次男の言いようこそ親に対しては赦し難い文言ではございましたが、それはそれで今回は言いようだけの問題でありまして、根源に御座いますのは親の身を案ずる子の心で御座います。ならばこそここは素直に認めて有言実行して見せれば親として面目が立つと言うものかも知れない。そう考えて長男にその旨を話しましたところ「父上の此度の行動こそ遼之介に武士道の手本をひとつ示す絶好の機会かと存じます。何より遼之介に手本を示す事よりもそれがしにとりましては父上の御身体こそが一番大切でございますが」との回答でございましたので「さもありなん」と考えまして、今回それがし重い腰を上げるに至った次第でございます。

さてさて、いやしくも次男に明言こそ致しましたが日柄はよろしい方がよいかと考え、直近の大安吉日を選びまして健康診断結果表を片手に自分ごとで行くのは何年振りになりましょうか、近所の大きな医療機関を意気揚々と訪問致した次第で御座います。よもや人間五十年と信長公の申します通りこの齢になりますと、医療無しでは人間と言う生き物はそもそも自然に還るように出来ておるのでしょうか、不具合が自然とあちこちに出るのが理なのでありましょう。自分と同じかそれ以上の年齢の御仁の多い事よ。いささか驚きを隠せずにウロウロしておりますとその挙動を不審と判定されましたかお声掛けを頂きました。「失礼ですが本日はどこかお体の調子が優れなくてお越しですか?」声の主の方を見ますとそこにはうら若き大変美しい、年の頃は当家の長女と同じか少々年上の女性が洋装で立っておられました。それは非常に清潔感のある日本的なお顔立ちと洋装の合致が醸し出す、まるでめまいのするような美しさと言うものであったと今も記憶しております。

「戸外で夫人と言葉を交へてはなりませぬ」瞬間的に脳裏を什の掟が過るほどの美しさと申しましょうか、この表現は永劫我々にしか理解できない表現だなとどこか別の事を考えながらそれがし返答した次第にございます。「はい、大変かたじけのう御座います。今回恥ずかしながら定期健康診断の数値が芳しくないとの判定を頂戴いたしましたので来所した次第ではございますが、なにぶんこういった場所は平生から馴染みがほとんどなく、どこをどのように尋ねたらよいのかと途方に暮れておりましたところでございます。お声がけ幸甚でございます」とありのままを返答致しましたところ「あぁそれでしたら先ずは受け付けからで御座いますので、あちらに御座います大鳥居をくぐりまして右手、お稲荷様の手前に御座います発券所にて番号札をお引きになりまして正面の座椅子にてお待ちくださいませ。係りの者がすぐにご案内にお伺いします」と満面の笑みにてご説明頂きました。その間始終ずっと舶来の確かヂャスミン(茉莉花)と申しましたか、それがしの記憶が正しければ印度か支那あたりの高級な茶葉の香りが女性からずっと漂っておりました事が非常に印象深く残っておる次第にございます。「かたじけのう御座います」言われたとおりにすぐさまその場を逃げるようにして大鳥居に向かった次第にございますが、それはなぜか赤面する自分自身を感じておりました事が本心でございます。大鳥居の手前までその妖しくも美しい舶来のヂャスミンの香りは漂っていたように記憶しております。

果たして大鳥居をくぐり、右手を見ますと朱や黄金色の稲荷大明神の御旗が煌びやかに奥の社に沢山並んでいるのが見えましたがその手前に「受付発券所」と明示された大きな機械が鎮座しているのも見えましたのでその辺りから「ああ、あの機械」と理解が追いつき少々安心感を得ることが出来ました。これでようやく心安くゆっくりと機械に向かう事が出来たのでございます。これが世にも絶妙な物語の入り口になるとも知らずにで、御座います。

第三話に続く

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